能登半島地震で被害に遭われた方々に、心よりお見舞い申し上げます。被災された皆様の1日も早い安心した生活を心よりお祈りしております。
さて今回は、選手の引退後、いわゆるセカンドキャリアに関して話してみたいと思います。
米大リーグ ロサンゼルス・ドジャースに移籍した大谷翔平選手や山本由伸選手など日本人選手の活躍は素晴らしいですね。いつ振り返って見てもWBC2023でのアメリカとの決勝戦(3対2)で、3大会ぶり3回目の優勝を果たしたシーンは本当に感動いたしました。
決勝戦はTV視聴率が50%に迫ったそうで、ミラクルです ! 日本中が一つになった瞬間ってあんなタイミングを言うのですよね。
大谷翔平選手の直前のチームミーティングでのコメント、「憧れは捨てて、勝つことだけを考えましょう!」は、このシチュエーションにおいて核心を突く言葉でありました。決勝戦だけでなく、それぞれの試合においても、時には「One team、 For the team」、 時には不調のチームメイトをそれでも信頼している! と、故障で出場できなかった選手のために!
勝利した対戦相手の気持ちを慮りながら、また、応援してくれる人々、チームメンバーに向けて、しっかりと相手に伝わるような言葉で落ちついて、 ときに熱く、ときに冷静にコメントしていたのがとても印象的でした。
選手が成長した側面と、メディアによる”キャラ化”

どの競技の選手も、ここ10年ですごくインタビューが上手になりました。チームや競技団体はコンプライアンス・ガバナンス強化と同時に、選手のコメントにも力を入れてきた成果と言えます。感想、自己PR 、その話し方を含めて、トレーニングを受ける機会が増えました。
また、シンボリックで先駆者と言える、オリンピアン、パラリンピアンなどのお手本が彼らをリードいたしました。チームや団体にとって、選手の自主性や個性を尊重し、しっかりとファンや観客に対して、一流のアスリートとしての価値を示したことが所属チームや団体の価値向上にも繋がりました。これは大きな成功事例です。
まさに一昔前、と言っても40年くらい前までは、野球選手やボクサー、そしてお相撲さんがするコメントは、「ごっつあんです!」「はい!そっす!」「大丈夫です!」「明日も頑張ります!」など、インタビュアーが回答を誘導して、それに対して頷くことによって成り立つ事がほとんどであったと記憶しています。時には恐ろしいほどの沈黙が続いたこともありました。他方、かつては無闇矢鱈に話したがる人もいましたが、現在は隔世の感がいたします。
ファンや視聴者は一般的にマスメディアを通して選手の動きや発言を見守ってきましたし、他に方法はありませんでした。今でもメディアが大きな接点であると同時に、マスメディアはそれぞれの選手のイメージ、キャラクター化を含め、親和性の向上など価値化する大きな役割をしてきたと言えます。
スマートメディアに主役は変わりつつありますが、メディアとしての基本形は不変です。選手は人気商売であり、 チームもメディアを通して、時にはメディアが自身の顧客創造のため、選手を一種のキャラ クターにつくり上げて来ました。
選手のキャラクター化はメディアとチームの協業と言えます。山神様やおかわりくん! ホームランを打った後のベンチ前パフォーマンスなどは、そのキャラクターを印象付ける最高のショートショーです。そのキャラクター性を活かしながらも上手なコメントを伴って自分の立場でしっかりと伝えることができ、結果として選手の価値が大きくなったケースが多々あります。
一方で、メディアの動きの中でつくられたキャラクターが選手に負のイメージを与えるケースもあります。
WBCで、「最高です!最高です!」それだけをコメントとしてインタビューで答えた選手はたぶん、そもそもしゃべりが得意ではないのでしょう。イメージが無口なので、それを活かしたキャラとして、受けそうなワンセンテンスを繰り返すことで、それがその選手のキャラクターかのように見えます。
それをメディアが面白く助長し、親和性を活用して視聴率向上に繋げようとした傾向が時々見受けられます。このような行為は明らかに選手の将来に大きな影響を与 えていると考えます。
メディアが明らかなおバカキャラをエンタメ系のようにつくることはありませんが、近しいものを感じてしまいます。「〜選手、打ったのはどんなボールでしたか?」の問いに、「確か丸かったけどな」。お笑いの人がつくったギャグだとはいえ、キャラを作り上げたのはメディアです。
選手の皆様、少なくとも自らのキャラクター は自らがコントロールしましょう ! メディアや応援者に引きずられないようにしてください。一度出来上がると払拭は困難ですよ!
スポーツ選手に勉強は必要?
私が若い頃、両親や家族が子供に言い聞かす話をよく耳にしました。「そんなにスポーツばかりやってると馬鹿になるよ!」。明らかにこの言葉の裏側にはスポーツ選手は勉強をせずスポーツばかりする、という考えがあります。
もちろんスポーツに長けている事にはリスペクトしながらも、頂点を極めない限りスポーツで生計を立てるのは(少なくとも経済的成功は) 不可能に近く、そのうえ頂点を極めるのは他との比較を許さないぐらい厳しい競争があります。
お母さんは、引退後、セカンドキャリアとしての転換がうまくいかず、ぐずぐず不平不満を言う子供の姿を見たくなかったのでしょう。現実は甘くなく、ほとんどの選手がスポーツで生活できず、その後の生活に苦労すると警告しているのです。
だから勉強しなさい! と。選手同士では、スポーツ以外の勉強をすることに対する軽蔑にも近い無言の感覚があることもあり、それが選手間というコミュニティに蔓延していることを危惧しているのです。近い時期に転換しなければならないタイミングが迫っているにも関わらず、スポーツ以外の事を考えること自体が、 仲間とのコミュニティから離れる事を意味し、選手間の排他的な甘さただようコミュニティの存在があります。お母さんは暗に、それに飲み込まれるな ! と警告しているのです。
相撲業界の厳しい現実、セカンドキャリアの意識調査
以前、元横綱・貴乃花さんのお話をお聞きしたことがあります。
角界入りをする子供たちの多くは中学生で入門してきます。いわば部屋に住み込みながら義務教育だけを修業する訳です。 中学生から相撲の厳しい世界で生き、ほとんどが外部との一般的な接点はありません。必死に取り組むものの多くは、20歳半ばで怪我や限界を感じ引退します。
引退後、彼らは生活しなければなりませんから故郷へ帰り家業を継ぐか、ちゃんこ鍋屋、飲食店などを経営するなど選択肢は多くはないそうです。貴乃花さんは親方時代、弟子たちの将来を憂い、せめて、引退前に調理師の免許を取らせてあげようと、専門学校に尋ねると、専門学校は高校卒でないと入学できないという仕組みと言われたそうです。いわば八方塞がりです。知り合いの学校長に依頼し、何とか解決法を見つけたそうですが、そこには厳しい現実があります。
職業に貴賤はありません。一流商社、銀行員、コンビニ店員、ノルマの厳しい会社の営業マンも個人が仕事に懸命に取り組むと言う観点において、尊いものです。
特に一流と言われた選手において、セカンドキャリアでの仕事に対し、プライドと高いモチベーションを持っているかが問題です。
「こんなはずではなかった」 「もう少し勉強していたら」「もう少し引退後に関して、早くから準備をしていれば」 と引退後の選手、特に競技のプロ化が進んで以降、様々な場面でこのようなコメントを耳にします。先述したように、選手コミュニティの進む自然な方向、そのパワーに流されてしまった大変残念な例といえます。
少なくとも地域でスタートして活躍した選手か、転換点でプライドを捨てることもできずに社会に馴染めない。ドラマで見るような話ですが、現実に多々あります。
もし彼らが真剣にそのセカンドキャリアを危惧していれば、プロに行くという選択をしなかったかもしれません。スポーツ選手らしい「最大限チャンスを活かす!」、もしくは「やるだけやって!」と言うポジティブで後先を考えない事が問題なのでしょう。
公益財団日本オリンピック委員会 (JOC強化選手・オリンピアンのセカンドキャリアに関する意思調査)によると、現役アスリート400名強のアンケートでは、引退後の就職先に関して、約50%が不安、ビジネスの世界で自分の能力が通用するかに対しては約40%が不安、引退後もコーチ、スタッフとして競技に関わっていけるのか? に対しては 35%が不安という結果が出ています。
学歴で左右されるセカンドキャリアの現実
実に多くの選手が、トップアスリートといえども不安を感じています。それより下位の競技レベルで不安を感じるのは当たり前です。
また、イーキャリアネクストのインタビューによると、日本プロ野球選手の50%の最終学歴が高卒、プロバスケットボールは98%が大卒だそうです。プロ野球選手は引退後にセカンドキャリアに困る人が多く、プロバスケット選手は就職先を見つけやすいと言われています。
この場合、最終学歴の高卒が明らかに足かせになっています。勿論年齢も大きいと思いますが、引退後、キャリアアップを図るため大学に入るという選択肢はあるかも知れません。しかし、生活と言う現実がそれを許すでしょうか。
チームやリーグによっては、プロとしての現役時代に引退後選手の置かれる環境に関して、学ぶ機会を提供している場合もあると聞いていますが、それではタイミング的に遅すぎるのではないでしょうか。学生時代、少なくとも高校時代に、スポーツで生きる道を進んだ場合、引退後にはどのような選択肢があるのかを考えるべきです。
とくにその時期に監督やコーチ、所属の先生方は選手の将来の進路に関してアドバイスをしたり、選手自身に考えさせたり、少なくとも共に考えたりする必要があるのではないでしょうか。
プロ選手を生むようなチームのコーチであれば、後に選手がプロとして進む能力、可能性があるかどうかくらいは分かるでしょう。選手に対して、引退後の人生設計のアドバイスをする事は、コーチと選手の信頼関係を強固にする上でもとても重要です。
コーチや教員は一般的な社会人として働いた経験は少なく、的確なアドバイスをすることが困難な人もいるかもしれません。しかし、その場合も、 彼らは様々なセミナーや各大学などで行われているスポーツ関連のマネージメントやマーケティング、コーチングなど多くのカリキュラムを学び、適切な進路アドバイスをする必要性があるのでは、と考えます。
勿論、指導者のみならず高校生が直接学ぶ事ができれば、少なくとも、進路の選択肢は広がるのではないでしょうか。スポーツ選手として生きたいと考えている子供たちですから、関連する仕事も学ぶことに興味を持つことでしょ う。
セカンドキャリアの重要性

余談ですが私は以前、「スポーツキッザニアをつくりましょう!」と提案いたしました。キッザニア同様ですが、スポーツのお仕事に限って、その仕事のあらましを子供が学び体験できる施設です。
コーチ、トレーナーのみならず、スポーツマーケティング、スポーツマネージメント、スポーツプロダクトなどの仕事を実地体験しながら学べる場所、そのような「場」は、スポーツ選手のセカンドキャリアを早期のうちから考えるのに役立ち、とても重要だと考えます。
スポーツを始めてプロになるという夢をもった時に、引退後の進路も同時に考える。考える機会をもつことは、スポーツ界にとっては効果的で、人材の発掘、育成につながります。なにせスポーツへのモチベーションが高い人々ですから。
最後になりますが、プロとして生きる選手はそれぞれが多くのリスクにさらされています。
特に引退後、少なくとも彼らはプロに所属した訳ですから地元のスター選手です。その選手が自らプライドを持てず、モチベーションが上がらない仕事を、セカンドキャリアとして選択するしかないという状況に追い込まれぬようにしなければなりません。
長らく競技を続けてきた選手は、類まれなる運動能力をもち合わせているかどうかは別として、それぞれが身に付けているチャレンジ精神、競技を継続する根気、フェアープレイ、協調性、集中力などはビジネス社会で成功する最も必要な要素を習得しています。
十二分にその経験を活かして社会で活躍できるはずです。引退後も自信を持って、培ってきた経験を活かし様々な場面で活躍する。引退後も子供たちがあこがれる人でいて欲しいと、私は熱望しています。
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